東京高等裁判所 昭和28年(ネ)728号 判決
控訴代理人は、原判決を取消す。昭和十二年十一月十二日附控訴人名義を以てなされた控訴人の日本国籍離脱の届出並に昭和十七年九月三十日附で控訴人に対してなされた控訴人の日本国籍回復の許可はいずれも無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、
被控訴代理人は、本件控訴を棄却する旨の判決を求めた。
事実並に証拠の関係は、すべて原判決の事実に記載してあるとおりであるからこれを引用する。
三、理 由
本訴に於て、控訴人の主張するところを要約すれば、次のとおりである。
即ち、控訴人はアメリカ合衆国のハワイ島で生れ日米の二重国籍を取得したところ、日本の戸籍簿によれば、控訴人は昭和十二年十一月十二日日本の国籍離脱の届出をして日本の国籍を失い、その後控訴人は昭和十七年九月十七日日本政府に対し日本の国籍回復の許可を申請し、同月三十日附でその許可がなされた旨の記載がある。然しながら、右日本の国籍離脱の届出は控訴人の意思に基かない無効のものであり、右届出により控訴人は日本の国籍を失わなかつたものであるから、前記日本の国籍回復の許可は既に日本の国籍を有する者に対してなされたことゝなり当然無効である。
よつて、前記日本の国籍離脱の届出並に日本の国籍回復の許可のいずれも無効であることの確認を求めると云うのであつて、控訴人が本訴に於て明かにしようとするところの真意は、結局に於て控訴人は日米の二重国籍を保有する日本人であり(出生に基く)、二重国籍を有していない普通の日本人でないこと(国籍離脱の届出並に国籍回復許可の行政処分の無効を理由として)にあるものと解される。
そして、この二つの身分は、国籍法上その取扱を異にしている。即ち、二重国籍を有する日本人は、国籍法第十条第一項の規定によつて、日本国籍の離脱が出来るが、日本国籍丈を有する日本人は、同法第八条によつて、自己の志望により外国の国籍を取得した場合にのみ、日本の国籍を失うことに規定してある。
従て、控訴人をアメリカ合衆国に於てアメリカ人と認めるか、どうかはアメリカ合衆国に於て決定する問題であるとしても、我国法上控訴人が二重国籍を有する日本人であるか又は日本国籍丈を有する日本人であるかによつて、その取扱を異にしている点から考えると、両者はその内容を異にする公法上の法律関係であると云わなければならない。
よつて、本訴を単に過去の事実の確認丈を求めたものと解するのは、些か真相を把握した見解と云い難く、寧ろ前記説示の趣旨に於て現在の法律関係の確認を求めたものと解するを相当とする。
尚、控訴人が二重国籍を有する日本人であるか、又は単に日本国籍を有する丈の日本人であるかは、控訴人に取つて至大の利害関係があり、我国内法上国籍法の関係丈に於てもこれを確定するの利益があるのは云う迄もないところであるから、本訴があながち即時確定の法律上の利益がないものとは断定し難く、その当否は一に控訴人主張の請求原因たる事実の存否如何に繋るものと云わなければならない。
されば、控訴人の本訴請求を不適法として却下した原判決は違法であるから、民事訴訟法第三百八十八条によりこれを取消し、本件を東京地方裁判所へ差戻すべきものとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺葆 牛山要 野本泰)